まえがき
同じスポーツ競技でありながら国が違えばプレースタイルや環境も違うことが多々ある。
私自身、学童野球からプロ野球までを経験し、その中で高校野球の2年半が最も厳しい環境だった。
もう、30年以上も前のことなので、笑い話にもなりますが、現在、公立高校の野球でコーチをしている中で改めて、日本球界が世界基準とかけ離れているのかを感じている。
U18のカテゴリーで言うと日本は学校単位の全国トナーメントを行っていて、多くのファンやプレーヤーの大きな目標となっています。
この全国トーナメント方式の大会について、米国、中南米の野球国では異色と見られ、球界関係者からは「クレイジー」だと言われている。
では、一体何がどう違うのか?この辺りを記事にまとめましたので、指導現場に立たれている皆様がどのように感じるのか。
決して答えは1つではないので、どうしたら日本球界がより良くなり、野球というスポーツの価値が再定義されるのか一緒に考えていただきたい。
U18クラスにおける諸外国との違い
高校野球の全国大会が2年ぶりに開催されます。
無観客で実施となりますが、昨年の中止に比べれば選手も大会ができるだけありがたいという気持ちになっていることと思います。
敢えて、この時期に水を差すようなテーマで記事を書くことにした理由はこれから先の未来を考えると、甲子園を目指しての高校野球が果たして全てなのだろうか?
トーナメント式の負けたら終わりの公式戦。
全国で優勝した1チームを除けば残りはすべて負けて終了という悔しい思いを噛みしめなければならない。
現在、公立高校の野球部コーチを務めながら、切に感じていることがある。
それは、高校野球の未来が全く明るいものではないということ。
プロ野球は話題も多く、集客が伸びているものの(2019年シーズンまで)高校野球では参加チーム、人数の大幅減少となっている。
また、学童や少年野球でも部員獲得が進まず、連合チーム、やがては活動中止へ追い込まれるというありさまです。
この問題はすでに色々な場所で議論されているが、ただ人数を増やせば良いという問題ではなく、野球そのものの魅力が今の時代にあっていないのではないか?そして、受け入れがたい体質のスポーツになってしまっているように思う。
ネガティブなことばかり言っていても何も解決できないので、ここは、他国と日本の現状を比べてみて、良いものは取込み、次世代の野球界を作っていくために提言し、私自身、改革のために行動を起こします。
まずは、小手先のテクニックではなく、根本から考えてみたいと思う。
先日、この問題に早くから取り組まれている、大阪、堺ビックボーイ監督の阪長さんのオンラインセミナーを受講させていただいた。
阪長さんは、中南米、アフリア、アジアなど野球の普及、指導のために世界を見てきた方で、現に高校野球では一部の地域でリーグ戦「Liga Agresiva」の活動の発起人である。
どこの国でもトーナメント方式の大会はなく、リーグ戦が行われている。
トーナメント方式では、負けられないという状況なので、選手起用も特定の選手に偏り負荷がかかる。戦術についても、勝つためならと細かなプレーが増えてしまう傾向がある。
トーナメント方式かリーグ戦かという議論はこれから進めていかねばならないのですが、それ以前に私は野球とベースボールの違いを感じている。
では、一体日本の高校野球と他国のリーグでは何が違うのか?
高校野球はあくまでも教育の一環で体力の向上、コミュニケーション能力、協調性などを養うためのプログラムとなっている。
一度負けたら終了するスタイルは、日本社会を象徴しているようにも見えます。
ビジネスの世界でも日本人の多くは失敗に対してネガティブな感情を抱く。
しかし、世界を見れば多くの成功者と言われる人は、数多くの失敗を繰り返す下地があり、社会もそれを許容してる。
日本がバブル崩壊後、長期に渡って低迷を続けている背景には、このような思想から成り立つ社会が再び挑戦することを好ましく思っていないことが、ジリ貧になった原因ではないか。
たかが高校野球と言えども全国でTV放送が流れると認知もされ、活躍すればスター選手扱いとなる。
プロ野球とは異なり、学校や地域の代表として戦う姿は多くのファンを魅了することも事実。
しかし、野球人としてはまだまだ発展途上の選手であることを考えると、結果を得るためにかなりリスクをとって行っていることに一部で疑問を感じながらも現状を受け入れている。
では、諸外国ではどうだろうか。
米国、ドミニカなど野球の旺な国では、前提として投手は投球制限があり、使用するバットも木製か低反発の金属バットを使ってリーグ戦方式で試合を行っておりその指導についても細かな技術を教えることではなく、投げる、打つ、捕るなどの基本動作の習得に多くの時間が割かれている。
大学、プロと選手が次のステージへ進み最終的にMLBプレーヤーになるためのプログラムに沿って行われている。
良くも悪くもプログラム化されているということ。
このプログラムには長時間練習や身体を酷使するような内容は無く、チームでの活動であるが個人の成長が基本的な考えだ。
どちらが良いかという議論では無く、それぞれの良いところを取り入れて最良のプログラムを作り上げることを目指すものである。
指導者と選手の関係
日本の現場では、一部の私立高校を除き監督を含む指導者が教員と生徒という関係ではないだろうか。
学校教育では常に先生から生徒へ教えるという構図になっていて、生徒との関係も先生が上で生徒が下。部活動では、よりこの縦の関係性が強くなっている。
阪長さんからドミニカの現状を聞いた時に、コーチが選手をリスペクトすることからその関係が始まるとのこと何だか、随分違うなぁと。
これは、ドミニカの例で言うなら、野球は学校とは別で行われており、選手はプロチームとの契約を目指してプレーしている。
コーチは選手がプロ契約でき、MLBプレーヤーになってなんぼの評価となる。
選手は大切な商品でもあるのでこの関係性になるのではないかと思う。
リーグ戦で勝つことが指導者の評価ではないところが根本的な違いだ。
日本の高校野球は前提が異なる、私立高校と公立高校でも大きな差があり、環境もレベルも異なる。その異なるコンセプトのチームが果たして同じ目標で試合をすること自体おかしいのではないだろうか。
そして、チームによっては選手へのアプローチも大きく異なり公立学校の場合は、公務員のため教員は異動がつきものです。
監督によって、どんな野球をするかが大きく変わってしまうのも現状の課題ではないだろうか。
私が高校の指導現場に入って気づいたことに、野球部の顧問になる教員は、かなりの確率で高校野球野球の監督になるために教員になった方が多いと言う現実。
それほど、甲子園大会を含む高校野球が多くの人の人生に影響を与えてきたかが伺える。監督になる先生も多くの時間を活動に充ててきた。
いつか監督として甲子園へ出たい。そんな思いが強いのは至極当たり前のことです。
では、指導者と選手の関係はどのような関係性が良いのでしょうか?
私の持論ではありますが、今後の社会構造の変化を考えた時、大学を卒業して企業に就職、出世、そして定年まで勤め上げるなど、過去の理想モデルは既に崩壊しているので今後は米国のようなジョブ型と言われる雇用制度が普及し、得意な分野を作り、活かして行く時代になると思います。優良企業に就職できれば安泰などどいう時代ではないのです。
ちょっと内容が飛躍しすぎるようですが、このような環境で生き抜くための教養を身につけて欲しいという願いから、指導者としては、野球に落とし込んで挑戦すること、試行錯誤すること、継続することができる環境の提供が使命ではないかと思う。
野球の技術だけならプロO Bがいくらでも教えることができます。日本の高校野球は教育の現場を兼ねる、素晴らしいシステムになっているのですから最大限活かしていけることを考えて行きましょう。
教育システムの違い
先の表の通り日本とドミニカを比べても大きく異なることがわかる。ドミニカの最終目的はMLBになっていて、そのために下部組織がある。
一方日本の場合は、縦の連携がされておらず、それぞれの年代で大きくプレー環境が変わることになる。
日本の難しいところは、長期目線での育成ができないことだ。
その都度指導者も変わり方針が変わる中で、いかに試合に出場しつつレベルを上げて行くか。
特に高校野球のカテゴリーではトーナメント方式なのでレベルの違う選手同士が試合をしなければならず、強豪校と対戦すればコールドゲームで最短5回で試合終了となってしまう。
日本の高校は普段の週末はほぼ練習試合が組まれています。指導者のコネクションで試合を組んで行くのですが、毎年同じチームとの対戦になることが多い。
ならば、カテゴリーを分けてリーグ戦を導入してはどうだろうか。
前項の最後にも書かせていただいているが、「挑戦」、「試行錯誤」、「継続」を学ぶにはリーグ戦方式が適していると思う。
確かに甲子園大会は魅力的だが、果たして本気で目指しているチームがどれだけあるのだろうか。
口では甲子園出場が目標と公約しても、トーナメント方式で7試合、8試合も勝たねば達成できない県では、実際のところ、ベスト8以上にならなければ実感はない。
そして、これだけの試合を短期間で戦う夏の大会はかなり過酷である。もう、チームのためならと怪我を押しての出場など、美談化される時代でもないのだが、そう言う気持ちにさせてしまう大会であることは間違いない。
日本の高校野球が目指す方向性
この記事を書いている前夜にオリンピックで侍ジャパンが金メダルを獲得しました。アメリカやドミニカなどとも互角に戦える時代になったことは日本球界のレベルが上がったことは間違いない。
1995年の野茂選手が海を渡ってから26年が経ちその間い数多くの日本人メジャーリーガーが誕生した。イチロー選手、そして大谷選手とメジャーリーグの常識を覆し今やその実力は全米のファンも認める。
こうした企画外の選手が現れてきた背景にそのヒントが隠されているのではないかと思う。大谷選手は高校時代に既に160kmを計測するような速球を投げていたが、打者としては長打力はあったものの今のようにホームランを量産するような打者ではなかった。あくまで普通の選手とは次元は異なっているが・・・・。圧倒的な結果を高校時代に残している訳ではない。
イチロー選手にしても甲子園には出場しているが、評価はドラフト4位。
他、メジャーリーグで活躍した日本人選手を見てみると、黒田選手、上原選手、齊藤隆選手など高校時代にはほぼ無名な選手が最終的にはメジャーで活躍している。
このように、高校生の16歳から18歳という年齢ではまだまだプレーヤーとしてどのような成長を遂げるかわからないということ。メジャーリーガーは下部組織からプレーを始めてメジャー昇格まで3年~4年はかかる。大卒の選手で25歳前後というところだ。この年齢にパフォーマンスレベルを上げてメジャー昇格しその後10年間を一線で活躍を目指す。
日本の高校野球は全国大会を目指したトーナメント方式の大会であることから、選手はこの年齢での実力で試合に出場することになるから将来的に良いプレーヤーがこの段階から試合に出場できているとは言い切れない。
では、そんな将来の成長がわからない状況で高校時代でレギュラーになれないからといって大学進学以降プレーを辞めてしまう人が多くいるのではないだろうか。
野球界としては、いかに高校野球でプレーを終わらせてしまうことを減らせるか。
甲子園一筋に2年半の全てを捧げるほど打ち込んでしまうと、燃え尽き症候群とも呼ばれるように
これ以上プレーを続ける気力が無くなってしまうのも分かる。
そろそろ高校野球のシステムも変革の時代に来ているのではないだろうか。
公式戦もチームでの力の差が激しいためにコールドゲームで終えるチームが少なくない。
同じレベルで試合ができれば、拮抗した試合ができる可能性も高く、その中で選手は自信を得て
プレーを続けることを選択するだろう。
今こそ新しいリーグ戦の立ち上げをする時ではないだろうか。
既に、「Liga Agresiva」として今秋は9都府県64校程度で行う予定だ。
参考記事を紹介しておきます。
指導者も学び選手も実践を通したレベルアップ機会を得られることから、是非このリーグ戦が普及して世界に通じる育成システムとなって欲しい。
オリンピックで侍ジャパンが悲願の金メダルを獲ったことは日本が野球の先進国として相応しい環境を作り、NPBだけではなく各国のリーグでプレーする選手を育てる義務を背負ったということ。
これからがスタートであり、楽しみだ!
おわりに
いよいよ2021年2年ぶりの甲子園大会が始まります。
出場選手にとっては楽しみな大会となるでしょう。
投球数制限や、熱中症対策、コロナ対策等々高野連も大変な準備をしての大会開催となりますが、
何より関係者の皆様には感謝致します。
今回の記事では改めて既存のシステムを否定するものではなく、今以上にプレーヤーを増やし野球という素晴らしいスポーツを通して挑戦・試行錯誤・継続の力を養っていただき日本の未来を担う人材の育成役立って欲しいという願いである。
今回の記事は阪長さんの著書:高校球児に伝えたい!ラテンアメリカ式 メジャー直結練習法 東法出版