
データ活用が急速に進んでいる背景
近年、プロ野球を初め、社会人、大学、高校野球と野球に関するデータ活用が急速に増えています。
プロ野球でもスコアラーが投手の配球、打者の打球方向などを手書きで記録してデータ化していたものが高性能カメラやトラックマンといった元々軍事用に開発された弾道計測器によって野球やゴルフなどのボールのスピン量や回転軸方向、飛距離、球速などを計測し、TV中継などに活用、その後、選手の技術力向上のために使用されるようになりました。
やはりこの手の取り組みはMLBから始まり、遅れて日本へやって来ます。更に弾道計測だけではなく、モーションキャプチャーといったセンサーを身体に取り付けてコンピューターによる動作解析が加わり更に映画「マネーボール」で取り上げれたセーバーメトリクスなる野球データを現場に導入に試合に勝てるチーム作りをするといったいかにもアメリカらしい合理的なやり方が進んでいます。
スポーツの技術指導については、今までプレーヤーの感覚的なことを伝えることが多く、これが、なかなか伝わらないものでもありました。
数値化や可視化できるようになったことで再現性が格段にアップしたことは間違いありません。
よく指導現場では、「下半身を使って、強く振れ」「下が使えてない」「おもいっきり腕振って投げろ」など言われてもどうやったらそのようになるのか?
身体のどの部分をどう使ったらそのように動かせるのか?など疑問だらけで、教える方もこうだ、ああだとなってしまっていたのではないでしょうか。
スポーツは気合と根性で上達させるものではなく、科学的な根拠の基に原理原則を理解した上で改善に取り組むことで無駄なトレーニングをすることなくパフォーマンスを良くするといったプロセスが常識になりつつあります。
では、実際どんなデータがあるのでしょうか?次の項で解説して行きます。
どんなデータがあるのか?
データと言っても様々なものが存在していますが、大きく分けて2種類(個人パフォーマンス用・チーム戦略用データ)にざっくり分けてられます。
個人パフォーマンス用データには投手が投げるフォームとボール、打者のスイングと打球についてのデータが挙げられまず、投手についてはフォームの動作解析による身体の動きの計測。どのような動きをしていて、どれだけの力が加わっているか?また、パワーロスがどこにあるのか?を可視化します。
動作解析は「モーションキャプチャ」というセンサーを身体の関節などに装着して投球動作を行い、そのセンサーの動きをハイスピードカメラなど特殊なカメラで読み取ります。
読み取ったデータを解析ソフトで解析し動画・数値へ置き換えてデータ化します。
これが専門家によるデータ取得になります。
現在、動作解析については元々野球専用に開発されたものではなく、映像関係の産業用に開発されたものが多く、その用途をスポーツ分野へ応用された経緯がある。
解析ソフトだけでもかなりの製品がありますが、センサー+ハイスピード高性能カメラで動きを読み取ることが多く、そのイメージが分かりやすかったので下記の会社の製品と事例を紹介します。
株式会社 ナックイメージテクノロジー
De NAベイスターズ採用
アキュイティ株式会社
OptiTrack

次に今最も導入が進んでいる投球についてのデータについて紹介します。代表的な製品「トラックマン」「ラプソード」という製品名を聞いたことがあるかも知れませんが、これらの機器で計測できるのはボールの動きについてです。
例えば、ラプソードで計測できるのは投球用と打球用があります。MLBを初め、日本野球界においてもかなり利用が進んでいます。プロの投手などは個人で購入して、キャンプ時にブルペンで使用したりしています。
「トラックマン」は元々軍事用に開発された弾道計測なので、打者のスイングスピード、打球速度、軌道などトラックマンはプロ野球のスタジアムに常設されてきています。
ラプソードの導入事例についてはダルビッシュ投手のYoutube動画が分かりやすいので参考にしてみてください。使い方がよく分かります。
基本は高性能カメラ+モニター(iPad)という手軽な組み合わせで持ち運びやセッティングが簡単です。
Rapsodo

では、Rapsodoではどんなデータが取れるのかを参考に紹介します。
<投球分析用>
①球速 ②回転率 ③変化に影響を与える回転率 ④回転方向 ⑤回転効率 ⑥ストライクゾーン分析 ⑦縦及び横の変化⑧3D投球軌跡 ⑨リリース時の腕の高さ ⑩リリース時の腕のサイドの角度 ⑪リリース直後のボール上下の角度⑫リリース直後のボールの左右の角度以下はRapsodoのアプリ画面です。

Rapsodoの活用についてはプロ・アマ問わず進んでおり、既に結果を出しているプレーヤーが数多くいます。まずは、自分の現在値を感覚ではなくデータで知ること。そこから、どのように自分の持ち球を武器に変えていくか?ということです。
Rapsodoで取得できるデータ以外にもMLBの公式戦で得たデータが公表されているものがあり、
次項ではデータの活用について説明したいと思います。
指導現場でどのように活かすのか?
この分野の第一人者、神事努氏は長年ボールのスピンについて研究されておりbaseball Geeksのサイトでも有益な情報を配信されています。
私はbaseball Geeksの広告塔ではありませんが、野球のデータ活用時代がどれほど選手のパフォーマンスを上げてプレーする人、観る人を楽しませることのできる野球界の発展を強く望んでいます。
少々マニアックなところもありますが、可視化、数値化と分かりやすくなることで、課題が明確になり、プレーヤーと指導者も共通の認識を得て改善に取り組むことができます。
今まで「こうあるべきだ!」など根拠のないことを上からの目線で押し付けていた指導には消えていただき、PDCAを回して課題解決に取り組んで行きましょう。ビジネスの世界と同じです。
改善に改善を重ねて行くにはまず現状を知ることからスタートします。
データの活用についてのポイントを整理すると
1、現状を認識する。
2、改善点を見つける。
3、改善に取り組む。
4、数値を確認する。
5、改善が進まなければ方法を変えて再度改善に取り組む
データは上記のプロセスを進めて行くための基礎となります。
今後はどうなって行くのか?
MLBではデータの蓄積と活用がかなり進んでいます。公式戦で得られるデータや、個人の技術向上のための解析データなど。
何故かこの手のテクノロジーや手法については依然として米国発で遅れて日本へ入ってきます。どんな分野のものでも同じで、ビジネスにおけるマーケティングの手法などもこのパターンです。
米国では様々な取り組みを検証しており、投球間の距離の変更、ベースサイズの変更などマイナーリーグでは日々検証が行われています。
これらの背景にはMLBもこの数年で人気が低迷してきていることなど危機感があるのではないかと推測します。日本ではプロ野球(NPB)の観客動員が増えてきておりましたがコロナシーズンを期にどうなるか分かりません。
今後の日本野球界ではデータの蓄積が進み活用が進むことは間違いないでしょう。ここで、データを活用できるか、できないかで格差が生まれてくることも想定できます。
指導現場にいる方はこれらの情報にはアンテナを張り、選手を安全に成長させるための取り組みとして
活用して行くことが求められるでしょう。
ちなみに、Baseballgeeksの有料版にはMLB投手がシーズンで投げてきたボールの統計で球種別の配分がデータ公表されています。
必ずしもデータ通りの結果になる訳ではありませんが、配球パターンを決める際や変化球の割合など明確なデータがあることで自信を持って決めることができるのではないでしょうか。
まとめ
データを取得してそのデータをどう活用するかが現場では求められてきます。当然指導者は選手に対するアドバイスをする際に裏づけするデータに基づいていることが必要となります。
但し、今のところは個人データを計測する場合、機器が高額であり簡単に個人データを知ることはできるものではありません。
なので、先ずは、投球や打撃については既に取得され公開されているデータを利用することから初めてみてはいかがでしょうか?
例えば、攻撃におけるバントの活用などの有効性を示すデータがあった場合に自分たちのチームの戦術をこのデータに基づいて決めて行きます。
実際、送りバントか強打かどちらが得点に結びつく確率が高いのか?これらのデータは既に公開されているので判断材料として活用しますが、必ずしもデータ通りの結果になるわけではありません。
しかし、経験や感に頼ったものは再現性が乏しくなるなめ私は多いに活用して行きたいと思います。
あとは、データを活かせる指導者がどの程度増えて行くか?
投手の場合、球速、スピン量が分かったとします。では、どのように改善して行くのですか?
投球のどこを修正すれば結果がどうなるのかが分かる指導者でなければデータは宝の持ち腐れとなってしまいます。
是非、指導者の方はデータについて学んでいただき選手やチームのパフォーマンスの向上に役立てて欲しいものです。